自殺予防

2008年2月15日号
土浦市医師会 塚原直人(土浦厚生病院)

 自殺が1998年のバブル崩壊を境に急増し、以来、年間3万人台が続いており、昨年の6月に自殺対策基本法が制定されました。日本は世界第2位の自殺率であり男性が女性の2倍となっています。特に、55歳をピークとした働き盛りの男性に多いのは日本の特徴です。

 自殺の原因としては健康問題が46%、経済生活問題が24%となっています。

 自殺の背景としての精神疾患の研究では自殺企図者の75%に精神疾患が認められ、その48%がうつ病であり、28%が統合失調症、そのほかにはアルコール、薬物関連障害が関与しています。また急増しているうつ病に関して4人に3人は精神科に受診していないとの報告もあります。

 経済問題の深刻化、競争社会の激化に伴う社会構造の変化、人間関係のストレスが精神状態に変化をもたらし、うつ病の増加を引き起こしていると考えられます。

 うつ病は20歳代と50歳代に多く発症し、男性に比して女性が2倍多く、重症のうつ病では、自責・罪責感(自分のせいで、努力が足りないためにうまくいかない)、貧困念慮(将来がなくなった。財産を失う)心気念慮(身体の病気の不安。原因不明の痛み)、焦燥感、不眠、食欲不振が特徴です。

 実際は深刻な状態であっても見えない病気のため、周囲の人も気づかず、本人も病気であると気づかないために、治療が遅れることがしばしばです。

 治療は抗うつ剤服用を開始しますが、服薬の初期には眠気、だるさなどの副作用が見られます。症状を改善するには3週間は必要なため、十分な休養が必要となります。しかし、追い込まれた状況ではなかなか直ちに休養を取る環境を設定できないことが多いため、家族、職場の理解が必要です。
治療を開始する時期は自殺のリスクの高い時期であり、周囲の方がそっと見守ることが必要な時期でもあります。また病状の回復期にも自殺衝動は高いといわれています。

 特殊なものに産前、産後のうつ病があり、子育ての自信を失い、将来を悲観し、罪責感にとらわれて自殺を図ることがあり、注意が必要です。