胸膜中皮腫について

2009年7月15日号
土浦市医師会 高部和彦(土浦協同病院)

 私が胸膜中皮腫(中皮腫)を最初に経験したのは、1985年ごろ、呼吸器内科の研修で横須賀共済病院に勤務したときです。横須賀には造船所があり、当時は造船業が盛んであった地域で中皮腫は注目されていました。その後、建築業やさまざまな職業で中皮腫が見られるようになり、数年前にはアスベスト工場周辺の環境曝露(ばくろ)による発症が問題となりました(茨城県の調査では県内にはアスベスト環境曝露の危険地域はありません)。全国的に中皮腫は増加していて、当院でも、5年以上前は年に1人程度でしたが、最近は年に2~3人の方が中皮腫と診断されています。しかし、アスベスト曝露のない人では、中皮腫は肺癌(がん)よりまれで、発生率は年間10万人あたり1人程度です。 

 主な自覚症状は咳、息切れ、胸痛で、胸部X線ではほとんどの例で胸水が認められます。診断には組織検査が必須で、胸腔鏡で十分な組織を採取することが重要です。治療については、最近有効な抗癌剤(アリムタ)が使用可能となりましたが、手術、放射線、化学療法などのあらゆる治療を駆使しても治癒は少数であるのが現状です。中皮腫発生のメカニズムが遺伝子レベルで解明され、有効な分子標的治療薬が開発されることを期待します。

 中皮腫は社会的にも重要で、法律に基づく補償を受けることができます。以前は労災による補償だけで、職業性曝露が証明できないときには申請が困難でした。平成18年から施行されている石綿健康被害救済法では、中皮腫の診断が確実であれば曝露が不明であっても補償(死亡例で300万円程度)が受けられます。法律の発効前に亡くなられた方についても平成24年3月までは申請が可能なため、組織診断を確認して申請が可能なときには関係者の方に連絡するように進めています。

 日本のアスベスト使用量から、今後も10数年は中皮腫の発症が続くと思われます。診断、治療法の開発、補償の整備、アスベスト曝露の根絶を考える必要があります。