ピロリ菌について

2004年11月16日号
土浦市医師会 野上厚(野上病院)

●ピロリ菌とは
 1982年に、オーストラリアの二人の病理学者が、胃の中の細菌が何らかの形で胃病変と関連があるとした研究を始めたのがきっかけで、その後の研究によりこの細菌と胃十二指腸潰瘍との関連が明らかとなり、ヘリコバスター・ピロリ(ピロリ菌)と名づけられ世に認知されるようになりました。

●ピロリ菌と胃十二指腸潰瘍
 胃十二指腸潰瘍は、攻撃因子(胃液中の塩酸、ペプシン、ストレス、鎮痛剤など)と防御因子(粘液、粘膜血流など)の不均衡によって生じると言われていますが、ここにピロリ菌が何らかの関与をしています。

●ピロリ菌と胃がん
 細菌の疫学、動物実験および分子生物学的研究の積み重ねから、ピロリ菌が胃がんの発生に重要な役割を担っていることは間違いないと考えらていますが、そのメカニズムについては十分に明らかにされていません。がんではありませんが、低悪性度胃リンパ腫の治療にはピロリ菌の除菌治療が行われます。

●ピロリ菌感染を診断するには
 内視鏡による生検組織を必要とするものと、尿素呼気試験、抗体測定法などがあります。

●ピロリ菌感染症と診断されたら
胃十二指腸潰瘍がある人は、健康保険で殺菌治療が勧められます。現在の保険適応では、プロトンポンプ阻害剤という強力な制酸剤と、2種類の抗生剤を1週間に服用します。また、低悪性度胃リンパ腫の治療にも同様に、除菌治療が行われます。胃炎やポリープなどでピロリ菌がいるだけの人は、除菌の意義が検討中であるため現在のところ治療の対象にはなりません。
ピロリ菌感染症が、胃十二指腸潰瘍の症状に深く関与していることはほぼ間違いなく、さらに胃がんや胃リンパ腫の原因とも考えられるようになってきましたが、ピロリ菌に感染したすべての人がこれらの病気になるわけではありません。欧米の一部の国やアフリカ諸国では、ピロリ菌感染率は高いにもかかわらず、胃がんになる割合は日本を含む東南アジア諸国に比べかなり低いのも事実です。まだまだ解明されていない点も多く、また現在の除菌治療では除菌不成功例も多いことから、今後の胃潰瘍、胃がん治療の新たなる課題になっています。